83.漂着









禁断の転生ネタ&SF設定第二弾です・・・
その上、今回少々イタイ設定です…(><;)
苦手な方はご注意(^^;

それでも良いというお方は、
『10.間に合わない』
の続きに(一応)なっていますので
そちらから先にどうぞ・・・。























 ・・・もう何度目だ、と呻いた自分の声が、自分のものでないように思えた。

 あと少し。本当にあと少しだったのだ。あと少しで、今度こそ出逢えたのに。
 最後に『お前』を見失ったのは、遙か昔。まだヒトが母なる地球以外に生活の場を持たなかった時代に、聖なる女神の為に、聖なる古い土地の、聖なる宮を護っていた自分たち。
 その土地の、真っ青な空を今でも思い出せる。
 抜けるような蒼天の下で出逢い、共に育ち。そしてその同じ場処で、『お前』を失った。
 以来、何度生を享け、何度やり直しても。見つけだした時には必ず『お前』は先に逝った後で、『俺』はいつでも間に合わず、一度として出逢えずに。これが神に逆らった報いなのかと、思い知る。
 早く−−−早く。一刻も早く急がなければと、常に急き立てられ探し続けていたのに、結局、繰り返し『お前』を見失い続けてきた。

 そして、今、また。

 手に入れる直前、出逢う寸前。まるで流れる水のように、掌からすり抜けていった、その生命。
 ・・・目の前に横たわる骸が、絶望的なまでに鮮明だった。
 地に散った髪の色は、夥しく流れる血液に混じって境界も判然としない。
 もう少しで、手が届いたのに。目の前で、また見失ってしまった。
 呆然と骸を見下ろした視線を、そのまま己の手の先に移す。人差し指の先に灯る、鮮やかな紅。今では何の力も無いけれど、これだけはずっと持ち続けてきた、記憶の証。
 遙か昔から負ってきた、己の業そのもののような毒々しいその色に、俄に激しい憎悪を自覚する。
 この色が、いつか失せたら。そうしたら、こんなすれ違いにならず出逢えるだろうかと、そう思ったのは、いつの時代のことだったか。・・・何回前のことだったか。

 −−−もう、何もいらないのに。記憶も意思も誇りも証も、何もいらない。
 捨てられなかったのは、『お前』のことだけ。

 ただ、『お前』に出逢いたいだけだった。・・・なのに、何故。
 この爪が、この業が、邪魔をしているのかとそう思ったら、自然手が動いた。
 −−−十の爪のうち只一つ深紅に染まっている右手のそれを、何の躊躇いもなく左の指で一気に引き剥がし、投げ捨てた。
 ・・・引き剥かれ生々しい肉の露出した指先は、爪があった時より尚紅い。
 ぱたぱたと零れる鮮血が、地に広がる同色の髪と血溜まりの上に落ち、じわりと染みこんでいく。

 その様を、『俺』はぼんやりと見つめるしか無かった。







 −−−はた、とその子供が目を醒ました時、辺りは薄ぼんやりとした暗闇に覆われていた。

 枕元に灯した小さな常夜灯の光で、見慣れた部屋は橙色に照らし出されている。
 子供は、毛布の下で小さな胸を押さえた。つい今し方まで見ていた夢の鮮烈な紅が、目蓋の裏に焼き付いて離れない。胸がどきどきして、掌が汗で冷たく湿っている。
 それはまるで、指先から流れた血糊のように生々しい。
 どんな夢だったのか、細かい処は思い出せなかった。けれど何か・・・とてつもなく大事な何かを失くしてしまった、そんな感覚だけが、まざまざと胸に残る。
 下手をしたら、泣き出しそうな程の焦燥感。・・・だが泣き出すことは大層屈辱的な事だったので、子供はどうにかそれをこらえた。
 ・・・泣いたりせずとも、この焦燥を和らげる術を知っている。
 子供はそれを実行すべく、唐突に毛布を跳ね上げ、起き上がる。
 そして一目散に、部屋を飛び出して行った。





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 ・・・人類が、外宇宙へと船出して既に千年余。更に遠くへと手を伸ばし続けた人類は、広大な宙域を手中におさめ、爆発的に人口を増やしながら繁栄を謳歌した。
 だがやがて、その繁栄に陰りが見え始めた時。広がり過ぎた勢力圏の末端は、中央から切り離された辺境の星々として孤立した。貧しい彼等は、辛うじて繋がっている中央とのラインを細々と死守しながら、それでも独自に星に根付いて必至に生き抜いた。だが、過疎化した人口や文明の退行は如何ともし難く、その生活は近世の地球に近いものとなった。

 −−−そんな辺境惑星の一つに、中央からふらりとやって来て住み着いた変わり者の若い学者が、ひとり。

 中央生まれ、中央育ちの青年は、その土地で辺境特有のとある出来事に巻き込まれた。
 過疎の惑星では子供は大事な財産。よって孤児であれ大事に扱われる。孤児一人一人に対し、住民の中から相性が良いと思われる里親が、星を統括するシステムコンピュータによって厳選され指名される。そして住民は、里親の指名を基本的には拒否できない。
 ・・・白羽の矢の一本が、何故か自分に立ったのを知った時、青年はすぐさまその役目から逃れようと躍起になった。だが案の定青年の意思が通ることは無く、何度かに渡った陳情や苦情は全て徒労に終わった。
 土地勘の薄い余所者な上、若い独り者の自分に何故、と首を傾げ溜息をつくばかりだったが、こうなっては仕方がない。

 −−−そして青年の元に、一人の子供がやって来る。
 碧玉の瞳が印象的な、ひどく勝ち気な金髪の子供。

 5歳をようやく越えた幼い子供と、寡黙な青年。その奇妙な組み合わせは、静かな土地の片隅で、ひっそりとした暮らしを送っている。





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「・・・カミュ!」
 −−−深夜。
 寝付いた筈の子供が突然居間に駆け込んできたのを見て、若い家の主は僅かにその紅い瞳を見開いた。
 暖炉の前の肘掛け椅子から子供を顧みた青年の髪は、目と同じ紅。炎の照り返りで、その色合いは更に深みを増していて、子供の目にも美しく映える。
 その紅を目がけて駆けてきた子供は、勢いを殺すことなく、毛布に覆われている彼の膝に取り付いた。・・・青年の膝の上で、本の頁がぱらりと何枚か翻る。
「・・・どうしたんだ、眠った筈だろう」
 寝乱れてくしゃくしゃになった金の髪に青年が手を置くと、子供は大きな碧眼をじっと向けてくる。
「・・・ヤな夢を見た。だから」
 夢、と青年は呟き、穏やかに問う。
「嫌な夢とは、どんな夢だった」
「憶えてない。・・・ただ、指が」
「・・・指が? どうした」
 促すと、子供はじっと自分の右手に目を落とす。
「・・・人差し指に、真っ赤な爪があって・・・それが血だらけになって。・・・それで」
「それで、・・・怖かったのか?」
 柔らかな声音で尋ねたその問いに、子供はかぶりを振る。
「・・・違う。怖かったんじゃない」
 とりついた膝に、子供はこてんと頬を寄せ、呟く。
「・・・怖かったんじゃない。何だか悲しくなった。・・・ひとりぼっちみたいな気がした」
 その言葉に青年は笑み、宥めるように金髪をそっとなでつける。
「おかしなことを。見てご覧」
 そう言って、青年は小さな子供の両手を取ると、それを炎の方へかざしてよく見えるようにして、示す。
 ・・・綺麗に並んだ、小さな爪。
 だが一つだけ、右の人差し指だけが爪が無い。
 これは子供の生まれついてのもので、決して負傷して失ったものではない。人差し指の先は、爪の代わりに綺麗な皮膚で覆われている。
 残り9個の爪は、健康的な薄い桃色に揃っており、その様はまるで小さな貝殻の群れのようだ。
 それを子供と一緒に眺めて、青年がゆっくりと言う。
「・・・どこにも、血など無い。紅い爪も無い。綺麗だろう?」
「・・・うん」
 目の前の自分の両手をまじまじと見て、子供はやがて納得したように、笑う。
「うん、キレーだ。血なんか無いね」
「そうだな」
 頷いて微笑む青年の顔を見て、子供はもう一度笑うと、不意に強引にその膝によじ登る。
 そして居心地良くそこに納まると、満足げに青年の胸に耳を押し当てるようにして、目を閉じる。
「お前・・・此処で眠る気か」
 少し呆れた青年の声に、子供は悪びれずにそうだよと笑う。
 小さく溜息をついた青年は、仕方なく自分の膝掛け毛布を子供にかけてやった。そしてずり落ちないように小さな躰を抱え直しながら、微かに笑う。
「・・・子供扱いするなといつも言う癖に。まだ一人では眠れないのか」
「うるさいな。今日だけだから、いいんだ」
 一方的な口調で言って、ぬくぬくと毛布にくるまった子供は、満足げに笑う。
 そして眠そうに目を擦りながら、ふと呟くように呼びかけた。
「・・・カミュ。あのさ」
「何だ?」
 青年の長い髪が、落ちかかって子供の頬に触れる。子供はそれに気持ちよさそうに目を細めて、また笑う。
「あのさ。・・・俺ね、此処に来れて良かったって思ってるんだ。此処が好きだし、カミュも好きだから。逢えて良かったって」
「・・・そうか」
 短く応じる青年の声と金髪を撫でる手は、とても穏やかだ。子供は胸に押し当てた耳から直接伝わる青年の鼓動の音に、耳を澄ます。
 ・・・目蓋の裏に焼き付いていた紅も、掌の血糊の感触も、もう感じない。不安な夢はもう遠くに行ったのだと、子供は安堵する。
 −−−やっと、此処に辿り着いた。何故だかそんな気持ちになって、胸の中がとても温かい。
 躰の奥底で、ずっと目醒め続け疲れ切っていた何か−−−誰かが、ようやく穏やかな眠りにつこうとしているような・・・そんな気配がする。



 −−−やっと、見つけた。
 ずっと・・・ずっとただ、逢いたかった。



 声にならない声で子供が呟いたその言葉が、青年に届いたかは、判らない。
 ただ引き込まれるように落ちる眠りの中で、子供は見た気がした。





 −−−真っ青な、懐かしい綺麗な空。
 その下で見た、大好きだった人。・・・その、笑顔を。













<050214UP>

素晴らしき頂き物(みかげ様イラスト)→



ああああイタタタタ・・・・・・イタイもんを書いてシマイマシタ・・・。
ショッター魂、稼働中。・・・スンマセン・・・

・・・以前日記で、子蠍&大人水瓶ってのはどうだろう、みたいな話をしたことがあるのですが、転生ネタなら年齢差設定が使える!!と気づいてしまったのが敗因・・・。しつこいようですが、おいらは元来ショタなんですよ・・・ガクリ。

こうなってくると、かなりオリジナル色が濃くなってくるので、もう少し☆矢らしくどうにかならんかとも思い、実は何度も書き直して試行錯誤もしたんですが・・・しかし上手くまとまらず。
結局、最初に書いたのに少し手直ししてアップとなりました・・・。



以下は覚え書きのような裏設定・・・というか無駄な妄想話。多分、本文より更にイタイのでご注意。


この設定下の二人の関係性は、恋愛というより家族愛に近くなっているようです。・・・もしかしたら、この子ミロには氷河やアイザックが混じっているかもしれん、とも思ったり。

常々思っているのですが、カミュ(ミロとCP関係前提)にとって、弟子sへの愛情とミロに対する気持ちは全く別モノではありますがどちらも大変強い気持ちだと思いますし、カミュにとっては生きる上で、両者とも不可欠なモノだろうと思うのです。そういう感情をより必要としているのは、ミロよりもむしろ我が師だろうとワタシは思います。もの凄くハゲシイ人だと思うのですよ。
・・・で。もしカミュが、この大変強烈な二つの気持ちをいっしょくたにしたような感情を向けることの出来る者がいたなら、それはカミュにとってはパーペキな相手なんじゃないかしらん、と。
別にミロが不完全だと言いたい訳ではなく。そういう、有り得ないパーフェクトワールド(笑)はきっと大層静かで穏やかだろうと思うのですが(それは死にも似ているような気もする)、カミュが本当に心安らかにいられるのって、そういう世界なんじゃないのか、とか思ったワケです。
なので実は今回の話で救われているのは、ミロよりカミュなのかもしれません。
・・・・・・とゆーイタイ妄想の産物でありました(^^;)


SF的設定としては、萩尾望都の『銀の三角』方式に近いです。中央の人間はやたら長命でしかもほぼ不老(笑。遺伝子操作の結果っちゅうことで)。クローンを作って記憶を乗り換えれば、ほぼ不死。でも我が師はクローンは作ってない(あったとしても使う気は無し)。ミロりんは辺境ジモティーなので、普通に歳くって死にますが、多分今回のミロりんは早死に。史上初、ミロに先に逝かれる我が師、という図で。


・・・長々と失礼しました(^^;



モドル