49.思い出せない











「カミューなあなあカミュカミュー」
 ・・・悪戯を企む悪ガキの顔で、名前を連呼する。
 こんな時は、大抵よからぬ事を考えているのだ。特に名前の後ろに「ー」がつく時は、尚更。
 判ってはいても、無視すればまた五月蠅くつきまとうのも目に見えている。
「・・・何だ」
「あのさー前から気になってたんだけど聞いていいか」
「だから、何を」
「お前のホントの名前って、何て言うんだ」
 ・・・唐突に、何を言い出すのだ、こいつは。初めて出逢ってから、一体何年経っていると思っているのだ。
「今更、そんなものを聞いてどうするのだ」
「別にどうもしない。知りたいだけだ」
 にっこりと笑うその顔が、こんな時はある意味はかり知れない。
 何だか色々面倒だし、答える義務もないと判断する。
「・・・秘密だ」
「何・・・!?秘密!?」
 思わぬ返答だったようで、ミロはその青い目を全開にしたかと思うと、今度はわくわくと接近してくる。・・・しまった、と思った時にはもう遅い。どうやら面白がらせてしまったらしい。
「秘密!?秘密って何だ」
「・・・何だと言われても、言葉通りだが」
「秘密か。秘密なのか。そうか秘密か」
 何がそんなに楽しいのか、ヒミツヒミツと面白そうに連発している。本当に何がツボにはまるのか、全く予測がつかない人間だ。
 何やら妙に癪に触るので、意趣返しとばかりに、こちらからも聞き返してみる。
「・・・そう言うお前はどうなのだ。お前こそ、本来の名ではないのだろう」
 お、という顔をして、ミロは視線を上げてこちらを見る。
「何でそう思う」
「思わないでか。ミロス島出身のミロ、なぞと」
「・・・うん、そうだな」
 可笑しそうに笑んで、ミロは不意に両手を伸ばすと、私の両耳のあたりを掌で掴まえてごつんと額を寄せてくる。一体何がそんなに面白いのか、くすくす笑って。
 間近にある蒼天の瞳が、ひどく楽しそうに細められる。
「俺も、秘密だ。・・・当ててみるか?」
 馬鹿を言うな。当てられる訳がないだろう。
 ・・・笑い続けるミロの様子が、神経に障る。面倒なので手っ取り早く唇を塞いでみると、予想していたのか、もう一度小さく笑って、応じてくる。
 そんな仕草が、また癪に触る。
 一度離れた唇で、噛みつくようにまた口づける。
 その合間に、ミロの唇がかすかに私の名を呼ぶ形に動く。

 ・・・本当の名前だなぞと。今更何を言い出すのだ。
 今となってはお前が呼ぶその名だけが、私の名だというのに。
 お前が知り、お前が見、お前が呼ぶ。だから今の私が此処にいるというのに。


 −−−大体において、もう思い出すことも出来ないのだ。
 ・・・遠い昔、朧な記憶の靄の中で。

 誰かが私を呼ぶ、その声を。












<050114UP>



・・・ネタ的には一度はやっとけ、みたいな・・・(^^;)。
黄金連中の多くの名前は、みんな本名じゃなさそうですよね。辛うじて本名かなと思えるのは、射手獅子兄弟くらいか。ムウはシオンが付けたのかもなー、とか。

CP要素を前面に出そうとすると、どうしても我が師が冷淡とゆーかぞんざいな性格になります(笑)。
ウチには大きく分けて、ぞんざい系と穏和系の我が師がいるようです・・・。



モドル