38.朝のできごと








 −−−ふと目を醒ますと、辺りはまだ夜明け前の薄闇と冷気で覆われていた。


 夜と朝の狭間の、薄青い曖昧な闇。水の底のような静寂。吸い込むと、肺が痛いと感じるほどに冷えた空気。・・・見慣れた寝室が、ひどく余所余所しく感じられる。
 毛布からはみ出していた裸の肩がすっかり冷たくなっていて、慌ててミロは毛布の下に潜り込んだ。
 ・・・頬や首に触れる自分の髪さえ冷たい、冬の朝。
 それでも寝台の中だけは、嘘のように温かい。・・・何故なら自分と、もう一人の体温があるから。


 傍らで、まだ静かに眠っている者に視線をやる。間近にあるその青白い目蓋と、臙脂色の長い睫毛。白い頬に落ちる細かな影。乱れてシーツの上に散っている紅い髪筋。・・・そして、規則正しい、少し浅い呼吸。
 薄闇の中で、そんな諸々を毛布にくるまりながら眺めやり、ミロは喉の奥で小さく笑う。
 ・・・いつもどちらかと言えば冷然としていて、本音や弱みを頑固に隠したがる水瓶座の、無心な寝顔は無性に可笑しい。幼い時分からは随分時も経たけれど、こんな顔はあの頃とあまり変わりがない気がする。


 −−−実を言うなら。
 こんな風にこそりと寝顔を堪能するのが、ミロには密かな楽しみであったりする。起きている時にはまず見られない無防備さが、そこにあるから。
 早起きの苦手な筈の自分が、まさかこんな夜も明けきらない早朝に寝顔をまじまじ眺めて楽しんでいるなどと、カミュは欠片も知らないだろう。・・・もっとも知られたが最後、二度と油断も隙もなくなるに違いない。

 だから、これは秘密だ。

 寝顔ひとつにどうして油断とか隙とかいう言葉が出てくるのかと思うが、それくらいには、この水瓶座は頑固なのだ。


 冷えていた肩も大分温まって、ミロは傍らの眠りを妨げぬように、少しだけ身を起こす。そして、そっとその頬に触れてみる。
 薄暮の中、白い陶器めいて見えるその頬は、それでもちゃんと温かい。
 触れられて、起きないまでも躰を身じろがせたカミュが、かすかにその身を寄せてきて、ミロはまた小さく笑う。

 −−−そしてこれが、もう一つの秘密。

 低血圧のせいなのか、カミュは実は寝起きが悪い。だがミロと違って惰眠を好まないから、毎朝目醒めきらぬ自分の躰を無理矢理引きずり起こしているらしい。
 そんな調子なので、こんな冬の早朝、ちょっとやそっと触れたくらいじゃ起きやしない。
 そして寝ぼけた水瓶は、意外と子供のような風情などあったりして。それが、ミロには楽しくて仕方がない。
 頬にあてた掌を、そのまま紅い髪をかきわけるように移動して、頭を少しだけ抱き寄せる。すると本当に子供のように、気持ちよさげに頬を寄せ、躰を寄せてくる。
 ・・・本人無意識だから、これもカミュは知らないこと。
 普段いつでも毅然と立って冷気をまとい、下手をすると誰一人寄せ付けないくらいの勢いだから、こんなギャップは大変可笑しい。・・・そして、嬉しい。
 綺麗な紅い髪に頬を埋めるようにして抱き寄せて、くすくす笑う。腕の中におさまった体温と、胸元に触れる寝息を楽しんで。


 −−−これだけは、絶対カミュには教えない。自分だけの、秘密だ。










<041117 UP>



ぐわー・・・。前回(19番)に引き続きバカッポー・・・!!
一応ハズカシイもん書いてる自覚はありまする・・・ぐあ。
いっそエロになだれこんじゃえば少しは救われるのかだろーか・・・とも思いましたが、しかしそうすると、わがしが完全に起きちゃって意味なくなるので、敢えて・・・(馬鹿・・・)

ええと・・・イメェジとしてはまたしても16歳前後で書いてます。
87番『ハネ』でも書きましたが、眠シチュが好きなんです・・・スンマセン。
普段かっちりしてるわがしがムニャムニャ寝ぼけてたら、ちっとは可愛いげあるかな、と・・・そんでもって、安心して眠れる場処ってゆーのがお互いの傍だったらいいな、と・・・そーゆー妄想でした(><;



モドル